教育からみたカンボジア人材の競争力
カンボジアは世界的に見ても人材の育成や獲得、維持が難しい国
CDLの鳴海です。2017年1月に発表された「人材競争力ランキング」では、カンボジアは108位と、昨年の96位(109か国中)から順位を落としました。「人材競争力ランキング」は、スイスに本部を置く人材サービス会社・アデコグループなどが、世界118カ国を対象に行った国際調査を基にまとめたもので、人材の育成や獲得、維持について各国をランク付けしています。
つまり、カンボジアは世界的に見ても人材の育成や獲得、維持が難しい国だと判断されているということですが、したがって私たちCDLのような人材紹介会社が、進出する日本企業に対して人材の育成や獲得、維持に関してサービスできることはとても多くあると考えています。
ところで、この調査では、カンボジアはエレクトロニクスなど先進技術の高付加価値輸出で、昨年の63位から104位に後退しています。また、政府介入の有効性も不十分だと104位、汚職ランキングは115位でした。人材育成には、Training(職業訓練)とeducation(人材教育)の双方の意味が含まれますが、今回はカンボジアの人材教育にスポットを当てて、人材の競争力の今後について書きたいと思います。
不正に対して寛容な社会は子供のうちから作られる
昨年9月のカンボジア教育省の発表によると、2016年の全国高校卒業試験は、約62%にあたる5万5753人が合格しました。不正の取り締まり強化が始まった2014年には25.7%しか試験を通過できず、追試によって40.67%まで合格率を引き上げられ、翌年の2015年の合格率は約56%でした。合格率は連続して上昇したことになります。
カンボジアの全国高校卒業試験の合格は、大学へ進学する者にとって必須の資格ですので、基本的には、合格できないと大学生になれないシステムになっています。実は、不正の取り締まりが強化されるまでは、例年、受験者の8割が合格する試験でした。しかし、受験生によるカンニングや試験官の買収が横行しているという話が以前からあったにもかかわらず、教育省はこれらの存在を否定し続け、長らく放置されていたのです。
ある団体が2012年に調査したところ、約7割の受験生が「試験監督に賄賂を支払った」と回答しており、また賄賂の目的はカンニング行為に「見て見ぬふり」をしてもらうことだったとしています。賄賂の金額は、生徒一人あたり約30ドルですが、翌年の2013年には約35ドルに上昇したという調査結果でした。
そんな中、教育省に新しくハン・チュオンナロン大臣が就任し、早々と高校卒業試験の厳格化を断行しました。その後の結果は色んな意味で世界的に注目され、日本のメディアでも報道されています。このショック療法は奏功し、例えば教育省としてはその後の教育費予算の大幅増を勝ち取っています。
雇用主にとって大卒と言っても油断ならない低い学力
2016年3月、カンボジアビジネスパートナーズがプノンペン都内に住むカンボジア人を対象に調査したところ、大学生等であっても簡単な算数や理科の問題の正解率が低いことがわかっています。例えば、「8ドルの商品が20%割引したらいくらか?」という設問で、正解は「6.4ドル」ですが、正解率は大卒者等(卒業見込含む)で62%でした。
(※)カンボジアビジネスパートナーズ WEBマガジン:http://business-partners.asia/cambodia/
高等教育機関に通う生徒とは思えない正解率になっているのは、大学生の中に本来は大学に進学できない学力の生徒たちが混在していた証拠です。優秀な生徒に混ざって授業を受けることは彼らにとって苦痛でないのかと思いそうですが、割合で言えば彼らの方がマジョリティです。大学が多数派を占める彼らに合せた内容や進行スピードで授業を行っているとしたら、進学すべくして進学した成績優秀な生徒の方が不幸なことです。自分の可能性が埋没させられていることに気が付かないかもしれません。
「アタリ」を引くなら内田クレペリン検査が有効
話はそれますが、カンボジア在住企業が求人要件の一つとして大学卒業を挙げるケースがたまに見受けられます。その意図が、高い学力を評価しているものだとすれば、上記の状況から期待外れに終わる可能性が高いです。また、学力の高さではなく、勉学に勤しむ忍耐力のようなものを評価するのだとしても、大卒者には忍耐を惜しみ賄賂で卒業試験に合格した者が多く混在している状況ですから、これまた期待外れに終わる可能性が高いです。
これは確率論の話なので、本当に成績が優秀な人材も混在しているのですが、少数なので「アタリ」を引くのは難しいという話です。「アタリ」を引く確率を上げる方法の一つとして、面接では見抜けない特徴を知ることができる内田クレペリン検査を利用する方法があります。内田クレペリン検査に興味がある方は、代理店にもなっているCDLにお問い合わせください。
(※)内田クレペリン検査 https://www.nsgk.co.jp/sv/kensa/kraepelin/
教育水準はASEAN最下位
スイスのダボス年次総会で知られる国際機関である世界経済フォーラムが2016年9月に公表した国際競争力レポートでは、カンボジアでの事業に伴う主な阻害要因の一つとして、腐敗に次いで労働者の教育水準を挙げています。また、このレポートの教育に関係する詳細をみると、初等教育の質(110位)、中等・高等教育(124位)は過去のランキングと比較しても低迷したままで、他のASEAN諸国と比較してもレベルが低く、ランキング対象外のミャンマーを除けば最低という結果でした。
生徒よりも成績が悪い教師たち
勉強しない学生にも問題はありますが、そもそも学習環境にも問題があるようです。世界銀行のレポートによると、教員養成学校(TTC)に通う教師のタマゴたちの成績をグラフにしたものです。 上記グラフのとおり、グレードA、Bを獲得している人は誰もいません。5段階通信簿で2と1の方が大半を占めているばかりか、ごく僅かですが失格レベルの成績の方までいます。現役教師と教師のタマゴと現役生徒の3群に同じテストを受けてもらったところ、一番成績が良かったのが現役生徒で、一番成績が悪かったのが現役教師だったという話も聞きます。
他国と比較して教師は冷遇
なぜ、成績の良い人が教師にならないのかというと、理由は給料の安さにあります。 上記グラフは、民間セクターで働いた場合の収入を100とした場合の教師の収入を数値に表したグラフです。カンボジアの場合、民間で働くのと比較して6割程度の収入にしかならないことがわかります。これでは、いかに教師という職業が好きな人だとしても、教師にはなりたい人は少ないでしょう。真逆なのはタイで、教師は民間で働くよりも収入が4割も多いことがわかります。タイの場合、教師になりたい人が多く集まるため、優秀な人材を確保できることが容易に想像できます。
キャッシュポイントの少ない教師という職業
教師をはじめ、カンボジアの公務員は給料がとても安いので、政府は優秀な人材を確保するため、公務員に兼業を許可しています。公務員の給料だけでは生活もままならないのも事実で、ほとんどの公務員は公務とは別に民間セクターで仕事を持っています。彼らは、公務にほとんど関わることなく普通の民間人のごとく勤労収入を得たり、自分と関係の深い会社へ利益誘導したり、許認可で法定外手数料をとったりして生活をしています。こうして許認可権限を持つ官庁には、優秀な人材がコネで入省してきます。
ところが教師という職業は、そういう意味では公務員の中でもキャッシュポイントが少ない職業といえます。お金を要求する相手は、生徒か保護者くらいしかいませんので、テストの解答用紙を闇で売るか、私塾を開くくらいしか方法はありません。
現役公務員の方がCDLへ求職登録をされるケースが時々見受けられます。もちろん、公務員を退職して転職しようというわけではなく、公務員の籍を抜かずに仕事を探します。以前、小学校の校長先生が求職登録に来たときは私も驚きましたが、それ以上に校長先生の給料があまりに安いことを知り、さらに驚いた記憶があります。
最後に
試験の厳格化を図った2014年から連続して合格率が向上しているものの、抜本的な改革や政府介入を断行しない限りは、合格率の伸びはどこかで頭打ちすると思います。これは同時に大学進学率の頭打ちを意味しますが、そもそもこのような劣悪な学習環境の中で合格者が出ること自体、ある意味凄いことなので、成績が優秀な学生だけが大学に進学できる本来の姿になれば、授業は高度化でき、競争力のある高度人材を労働市場に少しは輩出できるかもしれません。
高校卒業試験の厳格化により学生は真面目に勉強するしか合格する方法が無くなりましたし、そうなれば、デキない教師への風当たりが強くなりますし、教師は子供が不合格になった責任を保護者になすりつけられまいと、やっきになって教えるようになるかもしれません。個人的には、高校卒業試験を学生だけでなく高校教師にも受験させて、成績を教育省のフェイスブックページに公表するという荒療治も並行して実施することを教育大臣に提案したいところです。
いずれにせよ、既存の教師の給料をタイのように大幅に上げられないので、デキる教師を残し、デキない教師を切るというようなことをしても、結局優秀な教師は志願してきませんから、既存の教師にとにかく頑張ってもらうしかありません。
CDL代表
北海道札幌市生まれ。22年間、厚生労働省などで勤務。2012年、カンボジア人青年との偶然の出会いから、能力・スキルに見合った仕事につけない人がいることを知り、カンボジア人に職業を紹介するビジネスを決意。
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